「自信とか自尊心ってね、幻なんですよ」編集者・トニー★ベイツが挑戦し続ける理由(3)

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「自信とか自尊心ってね、幻なんですよ」編集者・トニー★ベイツが挑戦し続ける理由(3)

最終回は彼に訪れた転機と現在の心境について話を進めていきたい。(取材・文:GreenTimes 編集部)

武器を捨てる訳にはいかない。

「昔、ある人に言われたことがあるんです。転職は何回しても構わないけど、一貫性は保つようにしろと。要するに同じ業界、職種であれば転職はキャリアアップにつながるけど、異なる業界を転々としていてはいつまでたってもプロにはなれないって。だから僕も「違う世界」とは思っていても紙媒体の制作という職種までは変えるつもりはなかった。10年以上培ってきたものは自分の武器なわけです。それを捨てるわけにはいかない。自分の職能を発揮する場所(業界)を変えようと思ったんです」

「転職に際して、一つだけ自分の心に明確に決めていたことがありました。それは『下請け業者にはもう戻らない』ということ。長年やってきましたからね。どんなに時間がかかっても、生活が苦しくなってもそこだけは絶対に譲らないぞという信念は持っていました。事業を支える側の役割は十分にやってきたと。これからはどんなに小さくてもいいから、事業を動かす側に回りたい考えるようになっていました」

怪しい求人情報の先に。

「恰好の良い御託を並べてきましたけど、現実はそんなに甘くなくてですね(笑)。都合の良い会社がすぐに見つかるはずもなく、結局は今までと同じような編集会社にも応募書類は送っていました。その中にカタログの編集長を募集している案件があって。聞いたこともない会社名だし書いてあることもイマイチ曖昧で怪しい感じはありましたけど、まぁ、保険的にというか、とりあえず応募だけはしてみることにしました」

「その会社の書類審査に通ったので、一応、面接に行ったわけなんですけど、会場がどういうわけか楽天の本社ビルだったんですよね。その面接で初めて知らされたのですが、何でも楽天が極秘に進めているプロジェクトがあって、その事業の中心になるのが紙媒体だというんです。楽天はインターネット企業ですからね。自前のスタッフに紙媒体に精通した人材がいなくて外に募集をかけたのだと」

引き寄せた幸運をつかんだトニー氏。2012年の春に彼は楽天グループが掲げる食品関連の新規事業のスターティング・メンバ―として参加することが決定した。彼にとっては初めてとなるインターネット&食品業界への挑戦だった。

やりきったという感覚。

「僕は根っからの立ち上げ職人気質というか。ゼロから何かを始めるのが基本的に好きなんです。そういう性分がポジティブに働いた好例だと思っています。言葉ではうまく言えませんが大変な苦労があったし、プライベートな時間を犠牲にしてまで働いた期間ではありましたけど、職業人としてはもっとも充実していた時期だったと思っています」

「ただ、編集長と言っても絶対的な権力があったわけじゃなくて。どこの世界にも上には上がいるというか。結局は事業長に権限があるわけですよ。その人が妥協を許さない人でね。彼が持っているバーを超えない限り、紙面のOKが絶対に出ない。しかも毎週、号を重ねるごとに微妙にバーを上げてくるんです(笑)。とにかく鍛えられましたね。彼のおかげで確実に発行物と僕自身のレベルアップは果たせましたね」

2016年に退社し現在はフリーランスの編集者として活動するトニー氏。

「昔から漠然と40歳になったら独立しようとは思ってました。偶然、その年齢のときにフリーランスになったわけですけど、これにはやはり前職での経験が大きく影響していると思います。企業という組織の中で自分が出来ることはやりきったという感覚が芽生え始めたのは事実です。あと妻の後押しも大きかったですね。自分の今後について迷っていたとき、『自分でやってみたら』って言葉をもらって。それがなければ、今でもサラリーマンを続けていたかも知れません」

『失われた20年』と言われるけれど

「僕は最近、友人のぼくもとさきこ氏と『たんぽぽ TERRACE プロジェクト』という活動を立ち上げました。『輝け、40代!』をコンセプトに、人生の転換点をつくるような商品やサービスを提供していこうというものです。僕らの世代は『失われた20年』と呼ばれる期間に社会に出て、人生で最も大切な20代、30代を過ごしてきました。それを不遇だったと嘆く人はいますが、僕はそんなことは全然ないと思っています。むしろ、不遇の中でしか見えなかったものもあると思うから。それは僕ら世代の価値観の中にしっかりと根付いているはずですし、そこで勝負しないでどこで勝負するのだろうと思うんですよ」

価値観で勝負する。そう断言するトニー氏。社会の中で自信を築いてこられなかったと思っている40代の人が多いのではないか、とも語る。

自信とか自尊心ってね

「自分もその一人です。今日、お話ししたことの中には時間の経過とともに美化されていることがたくさんあります。実際は行き当たりばったりが多かった。思考錯誤の連続で、結局、はっきりした目標を持てないまま歩んできたのが僕の人生ですから」

「自信とか自尊心ってね、幻だと思うんです。永遠に持ち続けられるものじゃない。成功してると思っているときだけ、心に映るものなんじゃないのかな。それでも欲しいなら、何かに挑戦し続けなきゃいけない。挑戦と失敗の先にしか成功はないし、自信は生まれないと思いますから」

40年生きてきてようやく目標らしいものをもてた気がすると、取材の最後に付け加えてくれたトニー氏。彼らが掲げる「たんぽぽ TERRACE プロジェクト」の動向に注目していきたい。

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トニー★ベイツ

1975年北海道生まれ。本名非公開。出版社、編集会社などを経て2012年、楽天グループの新規事業のスターティングメンバーに加わる。4年間の編集長経験ののち、フリーランスに転身。2019年、友人のぼくもとさきこ氏とともに「たんぽぽ TERRACE プロジェクト」を立ち上げる。